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最高裁判所第二小法廷 昭和24年(れ)2148号 判決 1949年12月28日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人青山新太郎の上告趣意第一点について。

所論第一段は、大津地方裁判所長浜支部判事上坂廣道が、被告人被疑者に対し弁護人を選任し得る旨を告知した「尚判事は弁護人選任シ得ル旨告ゲタリ」との調書の記載(記録二九丁裏)が不動文字で印刷されていることを非難し、これを無効の記載であり從ってこの事項の告知がなかった結果となるものであると主張するのであるが、記録を査閲すると、正に前示所論指摘のとおりの不動文字による記載がなされているのである。しかし不動文字の記載と雖も、その記載事項である告知の事実のあったことを否定するに足る資料のない限りは、その記載が不動文字によってなされているとの一事によって、その記載を無効であると即断することを得ないことは殆んど喋辞を要しないところであらう。しからば、前示反対資料(告知がなされなかったとの資料)の認められない本件においては(否、該調書を見ると、所謂指摘記載の次に「右録取シ読ミ聞ケタルニ相違無キ旨申立テ署名拇印シタリ」との記載があり、又そのとおり被告人(当時被疑者)の署名拇印のあることが明らかである)、論旨の謂われのないこと言を要しない。されば、所論告知のなかったものであることを前提としての憲法第三四條違反の主張は、これに対する判断を用いるの要を認めない。しかのみならず勾留処分の当否については別途の救済手段があるのであって、これをもっては上告理由となし得ないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第四二四号、同年一二月二七日大法廷判決参照)。されば論旨は何れにするも理由がない。

次に所論第二段は、刑訴應急措置法第四條は被告人の請求があることを前提とするものであって、裁判所が積極的に被告人に対してかゝる請求権のあることを告知する義務までも規定したものでないことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二四年(れ)第二三八号、同年一一月三〇日大法廷判決参照)。そして、記録を調査しても、被告人から右請求のあった事実はこれを認められないのであるから、この点の論旨も理由がない。

次に所論第三段は、刑訴應急措置法第三條の被疑者の弁護人選任権は旧刑訴法第三九條第二項所定の者についても認められていることは所論のとおりではあるが、それだからといって、所論のように刑訴應急措置法の解釈上これ等の者に対してまで、被疑者が勾留された事実並びに弁護人の選任権ある旨を通知しなければならない義務を裁判所に課しているものとは到底解することはできない。それ故本件被告人の勾留に際し裁判官が所論の通知手続をとらなかったとて、素より何等の違法はない。この点の論旨も理由がない。

以上のとおりであるから、刑訴施行法第二條旧刑訴第四四六條に從い、主文の如く判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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